兄は1番、私は2番3番、そしてガールフレンドは4番を各々愛した。
ブラームスのシンフォニーの話だ。
私がParisとMünchenに滞在したのは40年前、所謂巨匠の時代の幕が下りつつあった時だ。ピアノ、バイオリンそして指揮者など大物の生演奏に触れて心は弾んだ。時にはそんな人達と直接会って会話をもった事もある。夢のような話だ。
その頃私は、物故の巨匠達は一体どんな音とスタイルで音楽を創っていたのかという素朴な疑問が湧いた。そんな時、たまたまParisの名門のお宅に招待され、そこで1920〜30年代の沢山のSPレコードに出会った。これは生演奏をダイレクトにあの硬いレコード盤に刻みこんだものだ。しかし当時の再生機では音は半分も出ていない。
たまたまクラシック好きの電気技師がこれを見て15年近くの歳月をかけてイコライザーアンプを完成させ、倍音装置付きのスピーカーシステムと一緒に実音を限界まで追求した。諸外国の関係資料の検討と実験を何十回も繰り返し、再生機は完成した。レコードも1万点収集した。上海美術館、ブリヂストン美術館などで行ったSPコンサートは高い評価を受け成功した。
これらの演奏から感じるのは、優れた芸術は、高度な技術と湧き上がるPassionによって支えられているという事だ。
私はいま、クライスラーの弾くBRAHMSのV.C.を耳にしながらこの文章を書いているが、優れた芸術表現というものはそれ以上に"Borderless"
であるという事なのだ。
©いとう ひろおみ「黴の生えた腐った鍋料理をさらに煮込んだ図屏風」